62パーツの「一夜城」


1号機原子炉建屋カバー工事編(第2回)

柱と梁の接合部に「嵌合接合」を採用し、人手を介さずクレーンだけで高さ50mを超える構造物を建設する――。

プランの実現性に確信を抱いた清水建設生産技術本部の印藤正裕本部長は、構造解析の結果や施工のしやすさを踏まえて、ディテールを詰める作業を急いだ。



柱と梁の接合部。柱の突起と梁の穴をかみ合わせる(資料:東京電力ホールディングス)

まずは生産技術本部で、嵌合接合が構造的に成立するか検証してみる。

チームには簡易な構造計算ができるメンバーが複数いた。

「なんとかいけそうだ」と目算が立つと、今度は本格的な構造設計を設計部門に依頼した。

設計部門からは、様々な改善策が示される。

それを踏まえてディテールを変更していく。

例えば、初期のアイデアでは嵌合接合の突起部を水平方向に回転が可能な「円すい状」としていたが、接合部を剛接合(外力が加わっても接合部が変形しない構造)としたほうが構造面で有利だと分かったため、回転しないよう直方体に変更することにした。

カバーの柱は隣りの建屋の屋上に置く

合接合を採用することで、原子炉建屋に人が近付くことなく建屋カバーを建設する道が開けた。

残された難題は、カバーの配置計画だ。

 一般的な建築物のように地面に杭を打って柱を立てると、建屋周辺での作業が増えて工事が大掛かりなものになる。

また、汚染された発電所内で地盤を掘削すると、発生した土の処分も大変だ。

そこで、プレキャストコンクリート(PCa)版を置き、その上に柱を設置する「置き基礎」を採用することにした。

どこに置くかが難しい。

1号機原子炉建屋の周囲には、様々な建屋が隣接してつぎはぎ状に建っているため、一部の柱を地上ではなく建物の屋上に置かざるを得ないからだ。



建屋カバーの配置と規模(資料:東京電力ホールディングス)

最初は東側の柱2本をタービン建屋(原子炉建屋に隣接し、発電用のタービンが収められている建屋)の屋上に置こうと考えた。

しかし、タービン建屋の屋根には十分な強度がなく、巨大なカバーの重量を支えるには心もとない。

カバーに用いる鉄骨の重量は約1300tもある。

検討の結果、北側の柱2本を地上に、南側の柱2本を原子炉建屋に隣接するコントロール建屋(発電所の運転・監視をする中央制御室がある建物)と廃棄物処理建屋(発生した放射性廃棄物を処理する建物)の屋上にそれぞれ置くことにした。

これらの建屋の屋根スラブの厚さは800mmから1000mmほどもあり、カバーの重量を支えるのに十分な耐力を確保できると判断した。


事故後の1号機の中央制御室。2011324日に撮影(写真:東京電力ホールディングス)

測量は三次元レーザースキャナーで

情報が不足していた事故直後は、カバーの配置を検討するために、発電所を撮影した高精度な空中写真を東京電力から入手。

建屋の周辺を100分の1程度の縮尺に拡大し、同じく提供を受けた意匠図や構造図と突き合わせながら、建物の位置や高さを大まかに把握した。

現地での測量が可能になってからは、三次元レーザースキャナーを持ち込んで建屋の大きさや位置の詳細なデータを取得して、施工計画の立案に生かした。



三次元レーザースキャナーで計測した1号機原子炉建屋の形状。4000万点の点群から成る。
線状の部材や細かいがれきも捕捉した(資料:東京電力ホールディングス)

三次元レーザースキャナーは、離れた位置から対象物の三次元点群データを精度よく取得できる計測機器。

対象物にレーザーを照射し、反射して戻ってくるまでの時間や反射波との位相のずれから距離を算出する仕組みだ。

三次元座標に加えて色情報も取得できる。1000万円を超える製品も多かったが、徐々に価格が下がって普及が進んでいる。

印藤のチームでは2011年4月26日と5月13日に、発電所敷地内の7カ所(主に建屋西側の高台)から1号機原子炉建屋を計測し、合計4000万点に上る三次元点群データを取得した。

そして、これらの点群データをポリゴンデータに変換。

三次元CADで作成した建屋カバーの設計データと合成し、がれきなどとの干渉をチェックしたり、工事の手順を検討したりするのに用いた。



1号機原子炉建屋の三次元点群データをポリゴンデータに変換し、建屋カバーの三次元CADデータと合成した画像(資料:東京電力ホールディングス)

部材の大型ユニット化で工程数を減らす

短期間でカバーを建造するには、なるべく組み立ての工程数を減らさなければならない。

接合部のディテールや配置計画と併せてカバーの建設計画のカギを握ったのが、部材の大型ユニット化だった。

印藤らが目を付けたのは、国内最大級の750t吊りクローラークレーン。

その揚重能力をフル活用し、部材をギリギリまで大きくすれば、組み立て作業の手数を限界まで減らせるというわけだ。

検討の結果、四隅の柱とそれらをつなぐ梁、壁・屋根パネルなどを合わせて、62パーツにまで抑えることができた(内訳は、柱と梁がそれぞれ17パーツ、壁パネル18枚、屋根パネル6枚、柱脚架台2基、PCaの置き基礎2基)。

部材には軽量で強度に優れた鉄骨トラスを採用している。

これらの大型ユニットを工場で製作し、発電所まで運んでクレーンで一気に組み立てる。

「現代の一夜城」とでも呼べそうな作戦だ。


壁パネルは赤色のフックを梁に引っ掛けて設置する(写真:東京電力ホールディングス)

柱と梁、柱と柱をつなぐ方法は既に説明したので、壁・屋根パネルの接合方法にも触れておこう。

1パーツが約20m角もある18枚の壁パネルは、塩化ビニール樹脂でコーティングしたポリエステル繊維の膜材を張ったもの。

柱と梁を組み立てた後に設置する。

クレーンで吊って、内側に設けたフックを梁に引っ掛ける構造だ。

合計6枚ある屋根パネルは、1枚のサイズが全長約40m、幅約7m。

壁パネルと同じく、事前に膜材を張っておく。

壁パネルを設置した後、1枚ずつクレーンで吊って最上段の梁に置き、10t前後あるPCaブロックの重りを結んだ2本のワイヤで両側から押さえつけ、風圧に抵抗する仕様とした。



屋根パネルは両端に重りを付けたワイヤで押さえつける。
図は東京電力ホールディングスの資料をもとに日経コンストラクションが作成

ファンで吊り荷の回転を制御

部材を大型化して数を少なくすることで、工程数を大幅に減らすことができた。

一方、大型化によるデメリットもある。

巨大な部材は、風の影響を受けて回転しやすいのだ。

クレーンで吊り下げた部材が勝手な方向に回転しないよう制御するツールの開発も、印藤が率いるチームの役割だった。

考案したのは、ファン(送風機)で風を起こして吊り荷の回転を制御する装置だ。

ラジコン模型からプロペラの部品を流用し、実物のように動くリアルな模型を作成してイメージをつかんだ。

さらに、清水建設社内の機材を扱う部門に協力を仰いでモックアップを製作。

性能を検証し、実用化にこぎつけた。

吊り込む部材によって重量や形状が違うので、いくつかの仕様をそろえた。



ファンで風を起こして吊り荷の回転を制御する装置(写真:東京電力ホールディングス)

職人がカバーに登らなくてもいいように、玉掛け・玉外しを遠隔操作で行える「自動玉掛け装置」も開発した。

玉掛けとは、クレーンで荷を吊るために吊り荷にワイヤなどを掛ける作業。

玉外しはその逆だ。その機構を検討する際も、やはり模型を用いた。

印藤が丹精を込めて作り込んだ模型は、工事の発注者である東京電力や工事に関わる職人への説明にも役立った。

東京電力原子力設備管理部原子力耐震技術センターの木ノ下英雄主任は「模型で示してもらった案には説得力があった」と語る。

オーダーメードの機材を引っ下げ、前代未聞の工事はいよいよ動き始めた。