原発事故から4年後の難関、カバー解体

1号機原子炉建屋カバー工事編5

時の流れは早い。

福島第一原発1号機原子炉建屋の最上階(オペレーティングフロア)に残ったがれきの撤去に手を付けるため、4年間にわたって建屋を覆っていたカバーの解体が始まった。

清水建設はカバーの建設に引き続き、工事を担う。

清水建設生産技術本部の印藤正裕本部長(2011年12月時点)らが知恵を絞って計画した建屋カバーが完成してから、約4年後の15年7月28日。

東京電力福島第一原子力発電所では、役割を終えたカバーの解体が始まった。

放射性物質が付着した粉じんが作業時に舞い上がるのを防ぐため、建屋カバーの内側に眠るがれきに飛散防止剤を「これでもか」と吹き付けてから、最初のステップである屋根パネルの撤去を始める。

建設時と同様に、風が弱まる早朝を狙う。

750t吊りクローラークレーンを操って「自動玉掛け装置」を吊り込み、全長40mもの大きさの屋根パネルを取り外す算段だ。

クレーンは、カバーの組み立てに使用した機体と同じもの。操作を担当するオペレーターの技能とマシンが一体となり、一つ目のパネルが無事に外れた。

「その瞬間、現場には感動が広がった」。

解体工事を指揮する清水建設JVの砂山智所長は、その時の現場の様子をこのように振り返る。

カバー解体の第一段階である屋根パネル6枚の取り外しはその後も順調に進み、同年10月5日に終了した。

6枚ある屋根パネルの最後の1枚を取り外す様子。
2015
105日午前77分に作業を開始し、同810分頃に取り外しを終えた(写真:東京電力ホールディングス)

補強して再利用するのは困難

なぜ、せっかく苦労して作ったカバーを解体してしまうのか、ここで改めて説明しよう。

1号機原子炉建屋の最上階に当たるオペレーティングフロアには、今なお水素爆発で崩落した屋根などのがれきが折り重なっている。

廃炉を進めるにはまず、大量のがれきを撤去してから「燃料取り出し用カバー」を新たに設置し、プール内の使用済み燃料を取り出さなければならない。

そこで、11年10月の完成から約4年の月日を経て、いよいよカバーの解体に取り掛かったというわけだ。

1号機原子炉建屋のオペレーティングフロアに崩落した屋根スラブとみられるがれき。
屋根パネルの取り外しに向けた調査時に撮影(写真:東京電力ホールディングス)

東京電力と清水建設は当初、既設の建屋カバーを改造し、燃料取り出し用カバーとして活用するプランも検討した。

その結果、大掛かりな耐震補強を要することが分かったので、採用しなかった。

なぜ、大規模な補強が必要になるのか。

燃料取り出し用カバーには、使用済み燃料を運ぶために数十トンもある大型天井クレーンを仕込まなければならないからだ。

この重量を支え、大地震時にも安全性を確保するには、嵌合(かんごう)接合とした柱・梁の接合部26カ所をボルト接合に改造したり、カバーの滑動を抑制するために、柱脚部を補強したりしなければならない。

建屋カバーを燃料取り出し用カバーに改造する場合に必要となる接合部の補強(資料:東京電力ホールディングス)

がれきの撤去後、1号機原子炉建屋に新たに建設する燃料取り出し用カバーのイメージ。
内部にはプールから使用済み燃料を取り出すための燃料取り扱い機(FHM)を設置する(資料:東京電力ホールディングス)

建設時と逆の順序で解体

 建屋カバーの解体からがれき撤去までの手順は、大まかには次のとおりだ(下図を参照)。

図中には、建屋カバーの建設(図中の14)から、がれきの撤去に向けた解体(510)までの流れを簡略化して示した。
図は取材をもとに日経コンストラクションが作成した

まずは、専用の機械で屋根パネルの膜材を貫通させて、内部に粉じんの飛散防止剤を散布する。

続いて、屋根パネルの一部を一旦取り外し、内部をカメラで調査する。

事故があった11年はカバーの建設に全力を投入していたので、詳しい調査ができていなかったからだ。

屋根パネルを戻した後に準備を進め、いよいよ記事冒頭のように本格的な撤去作業に入る。

撤去後は専用の機械で作業の支障となる鉄骨がれきの撤去、小がれきの吸引を実施。

オペレーティングフロアのがれき撤去に向けて、1号機原子炉建屋の鉄骨に散水設備を取り付ける。

その後、18枚ある壁パネルを撤去する。

この時点で、原子炉建屋の躯体全体があらわになる。

オペレーティングフロアより上にある梁はがれき撤去の邪魔になるので、柱とともに一部を撤去・改造する。

梁にはがれき撤去に備えて防風シートを取り付ける。

最後に、建屋の北側に作業用の構台を設置する。

構台には遠隔操作が可能な解体用の重機を載せて、オペレーティングフロアに積もったがれきを撤去していく。

重機の製造は日立建機に依頼した。

がれきの撤去が終われば、ようやく燃料取り出し用カバーの建設に移ることができる。

東京電力は今のところ、20年度末にも使用済み燃料の取り出しを開始する目標を掲げている
13年時点では、17年度下半期の取り出し開始を目標としていた)。

清水建設や鹿島などが各建屋を担当

1号機原子炉建屋の建屋カバー解体工事を担当するのは、清水建設をメーンに鹿島、竹中工務店、前田建設工業、安藤ハザマで構成する共同企業体(JV)だ(以降、記事中では「清水建設JV」と表記)。

東京電力と清水建設JVが交わした契約の方式は、特命随意契約。

使用済み燃料の取り出しに向けた一連の工事は長期にわたるため、先行きが見えた範囲について逐次契約を結び、完了した分を精算するようにしている。

そんなわけで、工事には「福島第一原子力発電所1号機原子炉建屋カバー改造・燃料取扱設備他設置工事のうちカバー解体工事」という長い正式名称が付いた。

工期は14年5月30日から17年6月20日。

東京電力と清水建設JVは契約金額を非公開としている。

14号機の工事を担当する主な企業。
取材をもとに日経コンストラクションが作成(写真:左2点は日経コンストラクション、右2点は日本記者クラブ取材団代表撮影)

ちなみに、1~4号機原子炉建屋ではそれぞれ、がれき撤去と燃料取り出し用カバーの建設を、東京電力と結び付きが強い大手建設会社から成るJVで進めている。

1号機は既に述べた通り清水建設が、2・3号機は鹿島が、4号機は竹中工務店が主体だ。

燃料の取り出し作業やそのための設備工事については、1・4号機を日立GEニュークリア・エナジーが、2・3号機を東芝が担当している。

工事を円滑に進める上で、建設会社同士はもちろん、メーカーとの連携も欠かせない。

1~4号機のうち、使用済み燃料の取り出しを終えたのは、事故時にたまたま定期検査中で運転を停止していた4号機だけである。

以降では、1号機建屋カバーの解体工事の流れを順を追って詳しく見ていこう。

4号機原子炉建屋の使用済み燃料を取り出す様子。
写真左上が天井クレーン、中央が燃料取り扱い機。
2013
1118日に取り出し作業を始め、141222日に作業を終えた(写真:東京電力ホールディングス)

最初のハードルは飛散防止剤の散布

建屋カバーは、鉄骨造の構造物。四隅の柱とそれらをつなぐ梁、膜材を張った壁・屋根パネルなどから成り、高さは54.4mもある。

接合部に嵌合(かんごう)接合を採用し、62パーツに分けた部材を750t吊りクローラークレーンで組み上げたのはこれまでに説明したとおりだ。

このような構造を有するので、解体時は組み立て時と逆の順序で部材を取り外していくことになる。

一般的な鉄骨造建築物の解体工事のように鉄骨を切断したり、引き倒したりする必要がない分、簡単そうにも思える。

しかし、実際は建設時にも増して繊細な作業が求められることになった。

解体に入る前に、まず実施しなければならなかったのが、放射性物質が付着した粉じんの飛散防止対策だ。

鹿島がメーンで担当している3号機原子炉建屋のオペレーティングフロアのがれき撤去では、13年8月の作業時に2度にわたって大量の放射性物質が飛散。

発電所内の免震重要棟前のダストモニターが警報を発したり、東京電力の社員や作業員の身体汚染が発生したりした。

東京電力は、それまで崩落したがれきの下敷きになって風雨の影響を受けずにいた粉じんが、作業に伴って外気にさらされ飛散したと判断。

地元の自治体などから猛烈な抗議を受けたこの出来事を機に、飛散防止剤の散布を大幅に強化した経緯がある。

当然ながら、1号機原子炉建屋のカバー解体では念入りな飛散防止対策が求められた。

清水建設JVで所長を務める砂山は、「飛散防止剤とは、要するに『のり』のようなもの。アスベストを撤去するときに使用する薬剤の一つを使っている」と説明する。

効果はてきめんなのだが、後に控えるがれき撤去と燃料取り出し用カバーの設置時には、厄介者になる恐れがある。

「一度固まってしまうと、削らなければ取れないほどだ」(砂山所長)。

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飛散防止剤を散布すると、写真左手のように粉じんが風で舞うのを抑制できる(写真:東京電力ホールディングス)

飛散防止剤の散布装置を一から開発

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飛散防止剤の散布装置をクレーンで吊り込む(写真:東京電力ホールディングス)

屋根パネルを取り外す前に、カバー内に飛散防止剤を効率よくまくにはどうすればいいか。

清水建設では、専用の散布装置を一から開発する必要に迫られた。

同社が考案したのは、薬剤を収めたタンクの下に、カッターのような刃を先端に備える「筒」を取り付けた特殊な装置だ。

これを750t吊りクローラークレーンで屋根パネルの上に吊り込み、パネルに張った膜材を貫く。

そして、筒からカバーの内部に大量の飛散防止剤をまく。

砂山は、装置を開発する苦労を明かす。

「世界に一つしかないオリジナルの機械を構想し、試作して改良を施す。現場で使えるものになるまで、1年近くは掛かった。下方だけでなく横に吹き付けられるものなど、4種類ほどのタイプを用意しました」。


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散布装置を屋根パネルに突き刺した様子。
20141028日には作業中に突風が吹いた影響で膜材の一部が破れ、工事が中断するトラブルもあったが、大事には至らなかった(写真:東京電力ホールディングス)

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建屋カバーの内部に、散布装置の先端から飛散防止剤をまく様子(写真:東京電力ホールディングス)