原発カバー解体、「針の穴」を通す秘技

1号機原子炉建屋カバー工事編6

清水建設JVが担当する1号機原子炉建屋のカバーの解体。

通常はとび職人に頼る「玉掛け」を、遠隔操作でどうこなすかが課題だった。

秘密兵器は「自動玉掛け装置」と、クレーンを知り尽くしたオペレーターの技能だ。

放射性物質の飛散防止剤を、専用の機械で念入りに吹き付け、いよいよ屋根パネルの取り外しが始まった。

2015年7月28日のことだ。

屋根パネルの取り外しに使用した治具(吊りてんびん)と、治具に仕込んだ自動玉掛け装置。
東京電力ホールディングスの資料をもとに日経コンストラクションが作成

合計6枚ある屋根パネルはいずれも全長40mで、重量は30tを超える。

これらを建屋カバーの建設時に用いた750t吊りクローラークレーンで取り外すのだが、問題は「玉掛け」(クレーンで荷を吊るために吊り荷にワイヤなどを掛ける作業)の方法だった。

パネルがある建屋上部は放射線量が非常に高いので、通常の工事ではとび職人の手作業に頼る玉掛けを、全て遠隔操作でこなさなければならない。

屋根パネルの断面図と平面図(資料:東京電力ホールディングス)

カギを握るのが、清水建設が開発した「自動玉掛け装置」。

屋根パネルの上に突き出たツノの穴に、遠隔操作でピンを差し込んで引っ掛け、吊り上げる仕組みだ。

専用の大型治具(吊りてんびん)に仕込む。

自動玉掛け装置は、実は建屋カバーの建設時に開発しておいたもの。

ただし、建設時は部材を所定の位置に吊り込んで玉外し(
クレーンで荷を吊った後、吊り荷に掛けたワイヤなどを外す作業)をするだけで事足りたので、実戦で自動玉掛けに挑むのは今回が初めてだった。

自動玉掛け装置を搭載した吊りてんびんと、屋根パネル。
人の大きさと比較すると、パネルの巨大さが分かる(写真:東京電力ホールディングス)

カバーの建設時に屋根パネルを吊る様子。
当時は「玉外し」をするだけでよかったので、「玉掛け」が必要な解体時とは治具の形状が異なる。
2011108日に撮影(写真:東京電力ホールディングス)

吊り荷の位置情報をリアルタイムに自動計測

清水建設生産技術本部の印藤正裕本部長(肩書きは11年10月時点)の下、建屋カバーの建設当初から工事のための技術開発を担当し続けている同部の梶波信一副本部長は、11年当時を次のように振り返る。

「建設時には自動玉掛け装置を使う必要はない。玉外しをするだけでいいのだから。それでも装置を開発したのは、万が一の事態に備えてのことだった。組み立ての際に不具合が生じても、部材を一旦取り外して造り直せるようにしたかった。いずれにせよ、カバーの解体時には自動玉掛け装置が必要になることもあり、メーカーに協力してもらって6カ月ほどで完成させた」。

遠隔操作による玉掛けは、玉外しよりもずっと難しい。

「目視ではとても確認できない屋根パネルの上まで、装置を正確に吊り込まなければならない」(梶波副本部長)。

自動玉掛け装置の位置を確認するのに一役買うのが、装置を自動追尾し、三次元座標を計測するシステムだ。

カメラの映像や、自動計測した吊り荷の位置情報を分割画面に表示するシステム。
写真は小名浜港での仮組みの際の画像(写真:清水建設)

このシステムでは、1号機原子炉建屋の周辺に複数の計測機器(トータルステーション)を配置し、自動玉掛け装置の位置をリアルタイムで取得。

目標とする位置との誤差をミリ単位でモニター上に表示し、クレーンのオペレーターや装置の操作者が参考にできるようにした。

装置には、計測機器からの光線を反射するプリズムを仕込んである。

この自動追尾システムは、飛散防止剤の散布装置などを吊り込む際にもフル活用している。

クレーンや吊り荷の位置情報を計測する機器の位置関係。
東京電力ホールディングスの資料をもとに日経コンストラクションが作成

人馬一体でパネルを吊り上げる

750t吊りクローラークレーンのオペレーターは鉛ガラスで防護した運転席に乗り込み、自動玉掛け装置を搭載した吊りてんびんをカバーの上に吊り込む。

装置を屋根パネルの「ツノ」の位置に導きやすくするために、吊りてんびんにはガイドを取り付けてある。

正しい位置に到達したら、コンテナを改造した移動式の操作室(がんばろう福島号)にスタンバイした操作者が、あうんの呼吸で装置を遠隔操作して玉掛けする。

クレーンのオペレーターや装置の操作者が頼りにするのは、各所に取り付けたカメラの映像と治具の位置情報だ。

位置情報は上述のシステムで計測し、結果を発電所内の免震重要棟に設けた総合司令室から、クレーンの運転席や操作室に送り続けた。

http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/atcl/cntcolumn/15/00012/00010/06.jpg

鉛ガラスで防護した運転席で750t吊りクローラークレーンを操作するオペレーター。
全面マスクやゴム手袋をしているので、操作しづらい。
750t吊りクローラークレーンのオペレーターは総勢5人。
1号機で建屋カバーの建設を終えてからは、4号機の使用済み燃料取り出し用カバーの建設に携わった。
その後、再び1号機に戻ってきた(写真:清水建設)

http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/atcl/cntcolumn/15/00012/00010/03.jpg

クレーンに搭載したカメラで、 吊り上げた屋根パネルの上部を見たところ。
写真右上に見えるのが1号機原子炉建屋(写真:東京電力ホールディングス)

「職人だから、誤差をゼロに近づけたがる」

カバーの「建設」に着手した11年6月から750t吊りクローラークレーンのオペレーターを務めるエスシー・マシーナリの藤本信幸は、「自動玉掛け装置の操作者が作業しやすいように、治具を正確な位置に吊り込むのが私の役割。事前に打ち合わせを重ね、作業時は無線で綿密にコミュニケーションを取る」と説明する。

「治具が所定の位置からどれだけずれているか、モニターには誤差がミリ単位で表示される。

最初の頃は皆、少しの誤差ならさほど気にしていなかったのに、だんだんと要求が厳しくなって(笑)。

職人の本能というか、誤差をゼロに近づけたがる」(藤本氏)。

「ウルトラCみたいなものだから、1枚目が外れたときは作業員もみな感動した」。

所長の砂山はしみじみと語る。

開発した自動玉掛け装置と誘導システム、そして作業を担うオペレーターが一体となって、6枚ある屋根パネルの撤去は15年10月5日に無事に終了した。