福島第一原発に妙な名前のマシン大集合


1号機原子炉建屋カバー工事編7

清水建設JVが工事を担当する1号機原子炉建屋。

カバーの解体やがれきの調査・撤去では、同社が開発した個性的な機械が縦横無尽に活躍している。

連載第7回では、その一端を紹介しよう(
以下、敬称略。肩書きや組織名は、特記以外は2016年11月時点)。

福島第一原発で使用されている重機や機械には、風変わりな愛称を持つものが少なくない。

例えば、事故直後に原子炉への注水に用いたコンクリートポンプ車は、「キリン」や「ゾウさん」といった動物の名前を冠している。

遠隔操作が可能なクローラーダンプは「かたつむり1号機」。

飛散防止剤の散布に使用した。

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原子炉への注水に用いたコンクリートポンプ車。
手前から「シマウマ1号」、「ゾウさん1号」、「ゾウさん2号」。このほかに「キリン」がある(写真:日本記者クラブ取材団代表撮影)

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飛散防止剤の散布に使用した「かたつむり1号機」(写真:東京電力ホールディングス)

清水建設JVが1号機原子炉建屋の建屋カバー解体に使っている2台の750t吊りクローラークレーンには、「はやぶさ」と「かがやき」という愛称が与えられた。

鉄道好きの担当者が、新幹線にちなんで付けたという。

国内最大級の750t吊りクローラークレーンが「はやぶさ」なら、それよりも小さいサイズは――。

お察しのとおり、「はやて」や「ひたち」といった名前の重機もある。

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750t吊りクローラークレーンの「はやぶさ」(写真:日経コンストラクション)

2011年から活躍中の「ファンファン」って?

建屋カバーの建設時に開発した吊り荷の回転制御装置の愛称は「ファンファン」。

複数の送風機(ファン)で風を起こし、回転を制御する機構を持つからだ。

俳優の故・岡田眞澄の愛称にも引っ掛けた。

建設時はファンを並べただけのものだったが、カバーの解体工事に合わせて改良し、ファンで起こした風をダクトから噴射する方式に変えている。

性能とともに、名称も「ファンファン・アドバンス」に進化した。

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建屋カバーの建設時に開発した吊り荷の制御装置「ファンファン」(左)は、カバーの解体工事に合わせて改良した(右)。
ファンを並べただけのものから、ファンで起こした風をダクトから噴射する方式に変えている。
名称も「ファンファン・アドバンス」に進化した(写真:左は東京電力ホールディングス、右は日経コンストラクション)

ちなみに、屋根パネルの撤去に用いた治具(吊りてんびん)の愛称は「大将軍」だ。

かつてフジテレビ「とんねるずのみなさんのおかげです」の人気コーナー「仮面ノリダー」で、故・岡田眞澄が演じたキャラクターの名称が「ファンファン大佐」だった。

吊りてんびんは回転制御装置よりも重要だということで、「大佐」よりも格上の「大将軍」に落ち着いたのだという。

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屋根パネルの取り外しに用いた吊りてんびん。自動玉掛け装置を搭載している。
東京電力ホールディングスの資料をもとに日経コンストラクションが作成

常に緊張を強いられる現場にあって、技術者のささやかな遊び心と機械への愛着が感じられて面白い。

清水建設JVの日比野兼次副所長は言う。

「ファンファンは回転制御装置などと呼んでもいいが、呼びにくいというか…。

愛称のほうがイメージしやすい。

現場の人数はそれなりに多いし、たくさんの機械を使う。

愛称で呼べば覚えやすいし、間違うこともないでしょう」。

実用的な意味もあるというわけだ。

大型ペンチの遠隔操作「生卵を1回でつまむ」

連載第6回では、屋根パネルの取り外しまでを解説した。

その後、現場では、がれきの撤去に向けて散水設備を設置した。

万が一、強風などで粉じんが舞い上がっても、すぐさまミストを噴射して拡散を防ぐためだ。

1号機原子炉建屋の壁や屋根は水素爆発で吹き飛んだが、オペレーティングフロアの鉄骨柱と梁はかろうじて残っている。

そこで、この既存鉄骨に、散水用のノズルと配管を合計13ユニット(東面7カ所、西面6カ所)設置することにした。

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1号機原子炉建屋のオペレーティングフロアの鉄骨に、引っ掛けるようにして設置した散水設備。
散水量は1分当たり1522リットル。
噴射したミストが、折り重なったがれきの裏側にもしっかり回り込むよう、ついたてを用いた実験で効果を確かめた(写真:東京電力ホールディングス)

設置作業の支障となるのが、水素爆発の衝撃で折れ曲がった鉄骨など。

事前に取り除いておかなければならない。

55カ所もある支障鉄骨を切り取るために、清水建設が開発したのは大型のペンチのような装置。

名称は「ひとくち」だ。

クレーンで吊り込み、カメラの映像を頼りに操作して切り取っていく。

福島県広野町に設けた「折木ヤード」にモックアップを建設し、幾度も操作訓練を繰り返してから本番に挑んだ。

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鉄骨がれきを撤去する大型ペンチ「ひとくち」。先端や腕は自在に回転する。
旋回用のファンや6台のカメラを搭載する。
重量は18tだ。福島製作所(福島市)、高千穂工業(東京都練馬区)と開発した(写真:清水建設)

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「ひとくち」による作業の状況(写真:清水建設)

操作を担当する大崎建設の斉藤裕二は言う。

「テレビゲームと同じで、操作していると思わず力が入り、体ごと動いてしまうことも。

モックアップのおかげで、本番は丁寧な仕事ができている」。

清水建設JVの砂山所長は感嘆する。

「オペレーターの集中力はすさまじい。

難しい作業をやり切った後は、気晴らしに酒を飲みにいくこともできないほど疲れ果ててしまうようだ。

彼(斉藤氏)にはペンチを遠隔操作して生卵をつまめるか、試しにやってもらった。

すると、1回で見事につかんでみせた」。

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操作を練習するために造ったモックアップ(写真:東京電力ホールディングス)

吸引機「Karuwaza(かるわざ)」で小さながれきを一網打尽

散水設備を設置した後は、カバーの壁パネルの取り外しに移る。

その際に問題となるのが、既存の鉄骨に降り積もった細かなコンクリート片だ。

作業時に飛散しないよう、事前に片付ける必要がある。

そのために清水建設が開発したのが、大型の掃除機のような吸引機。

クレーンで建屋上部に吊り込み、梁の上のがれきを吸い込んで撤去する。

愛称は「Karuwaza(かるわざ)」。

ともに1号機で工事を担当する日立GEニュークリア・エナジーに敬意を表し、日立グループの電気掃除機にちなんで名付けた。

「かるわざ」の1号機は全長13m、重量22t。

直径30cm程度のがれきを吸引できる。

2号機は全長10m、重量35tでやや大きながれきも吸い込める。

吸引した空気は、二重のフィルターを通して排気する。

たまった高線量のがれきは、直接触れずにカートリッジごと外して処分できるように工夫した。

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清水建設が開発したがれきの吸引機「かるわざ」。写真左下のノズルから、がれきを吸い込む(写真:東京電力ホールディングス)

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がれきを吸い込む様子(写真:東京電力ホールディングス)

作業の機械化は至上命題

作業員の被曝を抑えつつ工事を前進させるには、これまで見てきたような機械の存在が不可欠だ。

「卓越した技能を持つオペレーターは、替えがきかない金の卵だ。

被曝線量を抑えて長く働いてもらうために、これからも作業の機械化を一層推し進める」と、所長の砂山は言う。

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飛散防止剤の散布装置は「Splash」と名付けた。重量は3t。吐出量は最大で1分当たり95リットル。
散布する位置に応じて複数の種類がある(写真:清水建設)

特殊な機械の開発は、様々なメーカーと清水建設が共同で進めている。

同社が練った構想をもとに、ポンプや油圧ユニットといった部品を別々のメーカーから調達し、総合調整を担うメーカーに組み立ててもらう。

構想から完成までにはだいたい1年ほど掛かる。

その間に事態が刻一刻と変化し、要求性能が変わってしまうのが悩ましい点だ。

「100点満点は難しい。足りない分は、やはりオペレーターの技量で補うしかない。若手をベテランの下に配置したり、訓練施設を活用したりして職人も鍛えていく」(砂山所長)。